地方での移住や多拠点くらしを考える上で、「しごと」や「人間関係」への不安を感じる人も少なくありません。
苫小牧で会社経営をしながら、移住者らと一緒に街づくりに取り組む磯貝大地さん(大地さん/写真左)と、2022年に苫小牧へUターン移住し、コワーキングスペース「Tomakomai Hub」をオープンさせた佐藤準大さん(ノリさん/同右)の2人に、“苫小牧くらしの実際”について話を聞きました。
Q そもそも磯貝さんと佐藤さんは、何のきっかけで繋がったのですか?
ノリ 僕がまだ東京にいる頃、大地さんの本業である内装工事を手掛ける「アイデザイン」という会社のWEBサイトを、色んな流れから共通の知り合いを介したりして、うちが管理させて頂くことになったのが、それが最初のきっかけですね。
Q 磯貝さんは、市内だけでなく移住者や市外の方とも多く交流を持たれていますよね?
大地 「とまこまいクリエイティブラボ」という、完全民営の町づくり会社を2020年に作ったんですが、そのさらに10年近く前から趣味みたいな感じで、地元の高校の活動支援だったり、苫小牧で毎秋大きなコスプレイベントがあるんですが、そのサポートだったりをしていて、そうした活動から繋がりが拡がったのが始まりだったと思います。
そしてコロナ禍に、苫小牧市の出身で、当時東京の大手広告代理店にお勤めだった方が、「苫小牧へUターンしようと考えているから、会いませんか?」と突然電話をかけて来てくれて、その縁から市内の色んな方を紹介したり、食事をしたりして、気づけば30人以上いるグループが出来上がっていた…といった感じです。
ノリ 今じゃ『磯貝村』なんて、呼ばれていますよね。僕も移住を具体的に考えた時には磯貝さんへ相談しましたし、Uターンとか移住とかの方が、今はグループに3分の1くらい。市内にお住まいの方や、出身だけど札幌も含めた道内の別の自治体に住みながら苫小牧に定期的に通っている方々もいます。
Q 『磯貝村』の皆さんは、どんな活動を主にされているのですか?
大地 楽しい飲み会はあるとして(笑)、誰かが何か企画したり、イベントをやったりする時とかに声を掛け合って、可能な範囲で助け合っているというのが基本です。「ちょっとココだけ、手伝ってくれる?」…とか、そんな感じで。
例えば「北海道移住ドラフト会議」という、北海道への移住希望者を、プロ野球のドラフト会議みたいに道内複数の自治体有志が勝手連的に指名しあう、“半分おふざけ”のマッチングイベントがあるんですが(写真)、その主催者のひとりも『村』のメンバーなので、一緒にイベントに参加して盛り上げて、そこで新しい出会いがあったりもしています。
自治体非公認イベントなので(笑)、いい意味で勝手にやってる分、遊びを通じて関係性が深まる部分はあるんだと思います。
Q そうすると『磯貝村』の皆さんは、色んな意味で“濃い”関係性なのでしょうか(笑)?
ノリ 案外、そうでも無いですよ(笑)。いい意味で最初は距離をしっかり取ってくれるし、お互い共通言語があるなっていう認識が出来るまで、ちゃんと距離を置いてくれていました。
大地 どんな集まりでも、初対面で「お仕事、何やっているんですか?」という質問は誰でもされるでしょうが、その人のプライベートを詮索したいとかではなく、その人が得意としていることだったり、その方の「色」だったりを知り合いたい、自分の知らない領域について聞いてみたい…という思いからだと思います。
そうしたコミュニケーションを楽しめて、心地いい人たちが集まって、結果的にグループになった感じです。なので、グループの女性陣のうち、誰が独身で、誰が結婚しているかとか、案外プライベートの部分は、僕も良く分かってなかったりもしています(笑)。
Q 大都市から地方へ移住を考える方には“濃い人間関係”に不安を感じる方もいますよね
ノリ 苫小牧に引っ越してきたばかりの頃に、地域の方とお話をしていると、家庭内のことやパートナーの事とか、初対面の方でも結構デリケートな部分にかなり踏み込んで話を聞かれる経験をして、面食らったことは正直ありました。
僕的には「家のこと知らなくたって別にいいじゃん」って思うんだけど、話す内容だったり、「この人に何を聞けばいいんだろう」「何をこの人と話せばいいんだろう」っていうのが、互いに良く分からないから、人によってはですが、話題にのぼるんですよね。良い・悪いかではなく、無意識に近くて濃い人間関係を築こうとして来る方は、大都市よりかは多いかも知れませんね。
大地 僕自身はそうした経験が殆ど無いからあまり実感はないですし、干渉や互いの依存とかはない方が、居心地は良いですけどね。『磯貝村』についても、ドライと言うと言い過ぎかもしれませんが、“緩やかな連帯”でありたいですし。
ノリ 地方に住み始めて、最初に陥りがちだけど、誰もがやりがちなのが、とりあえず声かけまくるとか、とりあえず色々なコミュニティに顔を出しまくる…と言うものですが、僕はお薦めしないですね。
それって確かに王道ですが、最初は不安だし何も繋がりが無いでしょうから、手あたり次第の気持ちもわかるのですが、先ずは信頼できそうな人を見つけて、その方と一定の信頼関係を気づいてから、その人の周辺の情報なんかを貰って、そこから広げていくのが僕は一番いいやり方かなと思っています。最初から拡げ過ぎると、自分とは相容れないケースに遭遇しちゃう可能性まで高まるような気がします。
本当にその人が信頼できるのかな?って言うのは、ある程度信頼できる別の人から聞いた方が確実です。その人の周りから、ちょっとずつ固めていけば、多分1年も頑張って動けば、かなりしっかりした、ご自身なりのコミュニティを築いていけると思いますよ。
大地 ノリさんは苫小牧に戻って来てから、地域での活動を凄く熱心にされていて、その背中を見た人が多いから、ひとが集まって来た気がしますよね
ノリ 僕は折角東京から戻って来たんだから、自然豊かなエリアに住みたいと思って、自然が今も多く残る市の西部に住み始めたんですよね。そこから地域の方と話している中で、「この僻地を盛り上げたいよね」って、こんな風に色んな(移住してきた人をはじめ)プレイヤーが多いなんて誰も思わないよね」っていうところから、自然と輪が広がっていった感じです。
Q 苫小牧への移住を考える方に、何かアドバイスはありますか?
ノリ これだけテレワークも普及した中ですから、出来るのなら「転職ありき」ではなく、今のお仕事を続けながら、1年先2年先を見据えて、種まきするのは効果的だと思います。東京で過ごす比重を減らし、こっちを徐々に増やしていく…とか。
その方法は、ある意味ご自身の(苫小牧での)ブランディングにもなると思うんです。「〇〇しているAさんが苫小牧に来ている」っていう風に。大手広告代理店とか、世界的なIT企業出身の方とかとでも、仕事のつきあいではなく友達レベルの関係を築けるのが、苫小牧はじめ地方暮らしの良いところだと思うんですよね。
僕自身も、移住を具体的に考えてからは、東京での仕事は極力絶やさず、苫小牧とも仕事に繋がれるよう何度も通いつつ、少しずつ人間関係を築いた感じです。
大地 東京みたいな巨大都市ではなく、苫小牧は地方なので、前提としてコミュニケーションはやっぱり大切です。難しいことではなく、会話のキャッチボールは最低限、互いに気持ちよく出来るかどうかは大事だと思います。
人によっては面倒なことかも知れませんが、色んなレイヤーの方がいらっしゃいますし、仕事の視点だけで考え過ぎないことも重要な気がしますね
ノリ 新千歳空港も、フェリーターミナルも30分圏内ですから、東京など本州と良く往来したい(しちゃえる)人には、苫小牧の暮らしは合いますよ。ホームシックになってもすぐ帰れますし(笑)。移動や往来が苦にならないのは苫小牧の魅力です。
仕事上でも、プライベートでも、やっぱりこの利便性・交通は強みだと思います。2時間~2時間半あれば都心まで行けますし。なので、「東京と繋がりながら北海道に暮らしたい」って方は、苫小牧が本当に向いていると思います。
Q 苫小牧くらしにおける“必需品”って、何だと思います?
大地 車はやはり、有るに越したことは無いですよ。その方が世界は広がります。
ノリ でも僕は引越ししてきたばかりの2~3ヶ月ぐらいは車を持たず、バスと自転車とJRのみで生活していました。今も僕、個人的に減量したいときは、あえて車を使わず駅まで歩いたりして暮らしています。東京とかと違って、工夫しないと殆ど歩かない生活に陥りがちなので、運動を習慣化させるのは結構大切じゃないですかね。
大地 苫小牧は道内でも雪は少ないですが、雪が積もった際の歩き方は、(特に道外の方は)早めにマスターした方が良いかも知れませんね。生活上の大事なテクニックです。歩き慣れてない方を見ると、直ぐ分かりますから(笑)。
ノリ 苫小牧市内でも、ご自身の『理想のくらし』スタイルによって、住みやすいエリアは変わってくると思います。企業や工場、ショッピングモールが集積している利便性が大事なら、職住近接の市東部が暮らしやすいでしょうし、僕のように北海道らしい自然あふれる暮らしが良いなら市の西部の方が相対的に、窓を開けたときに、山とか川とか海とかが見えたり、そういう生活が過ごせると思います。
Q 苫小牧での生活やオフタイムの魅力は何だと思いますか?
ノリ 苫小牧に来てから、釣りにはよく行くようになりました。自宅から車で約10分で、海の釣場まで着けますし、あと渓流も近くにあります。市の東側に30分も車で走ればサーフィンスポットもあるんですよ。普段の生活圏から車で10~15分走れば自然にアクセスできるのが、苫小牧らしいオフタイムだと思います。
地元の人が良く行く美味しいお店も沢山あります。苫小牧界隈の寿司チェーンである「クリッパー」とかは道外の友人を連れて行くと、みんな感動します。ネタは大きいですし、とにかく安くて美味しい。
ラーメンだと道内で人気の山岡家の味噌専門店とかも、苫小牧にあります。札幌以外では、苫小牧くらいでしか見ない、珍しいお店ですね。
大地 街の中心部だけでなく、意外と市内の何処に住んでいても、お酒を飲める店が結構あるのは良いところだと思います。北海道内で、そうした街は限られますから。
普段の移動は車が殆どですから、街の中心部よりも、家の近くまでとりあえず戻って、それから飲みに行く…みたいなケースが多いんです。最近はゲストを呼ぶときぐらいしか中心部で飲むことは殆どなくなりましたね。
運転の問題もありますが、近所のお店に何回か行ったら、店員さんも覚えてくれますし、話も弾みますから。そういう飲み屋さんとかで、仲がいい人を作って、そこから生まれる人間関係も、苫小牧っぽくって楽しいですよね。
(※記事中の写真は全てご本人からの提供)